LIMS導入におけるサーバ構成の基本と選び方 ― 失敗しないための指針を解説

LIMS(ラボ情報管理システム)を導入する際、つい機能や画面操作に目が向きがちですが、実は「サーバ構成」をどう設計するかも非常に重要です。
サーバ構成は、システムの安定稼働やトラブル対応のしやすさ、さらには導入コストや運用負荷にも直結します。
導入後に「もっと簡単に運用できる構成にしておけばよかった」と後悔するケースも少なくありません。
本記事では、LIMSにおける一般的なサーバ構成の考え方と、オンプレミス・クラウド・SaaSといった代表的な形態の特徴を整理します。
最終的にはどのLIMS製品を選ぶか、そのLIMSがどのサーバ構成に対応しているかを確認する必要はありますが、
「自社にはどの構成が合っているか」という判断のヒントになれば幸いです。
ぜひご一読ください。
LIMSサーバーの基本構造
LIMSのサーバ構成は、多くの場合「三層構造」で整理できます。
- クライアント層:ユーザーが操作する端末(PC、タブレットなど)
- アプリケーション層:LIMSのプログラムが動作するサーバ
- データベース層:分析結果や試験情報を蓄積するデータベースサーバ
クライアント層は通常、社内ネットワークを通じてアプリケーションサーバに接続し、結果としてデータベースへのアクセスが可能になります。
具体的には、ユーザーがPCで専用アプリやWebブラウザを使って、LIMSの操作をします。
例えばLIMSに測定値を入力(インプット)したり、LIMSが持つデータを表示(アウトプット)したりします。
このPCやタブレットがクライアント層です。
アプリケーション層は、データを処理する部分です。
例えばユーザーが入力した測定値をデータベースに記録したり、測定値を元に計算結果を算出したり、データベースの値をグラフや表に加工したりします。
いわばLIMSの頭脳と言うべき部分がアプリケーション層です。
データベース層は、記憶域です。
ユーザーが入力した測定値、アプリが算出した計算値、誰がいつ操作したかのログなど、様々なデータを保持します。
このように複数の層(プログラム)が役割分担して機能することで、LIMSは成り立っているのです。

冗長化とバックアップの考え方
システムの安定稼働を支える要素として、「冗長構成」や「バックアップ構成」があります。
多くの場合、上述したアプリケーション層とデータベース層がこれらの対象となります。
冗長化とは、サーバや通信機器を二重化して、片方が故障してももう片方で稼働を継続できるようにする仕組みです。バックアップは、万が一の障害や誤操作に備えてデータを定期的に複製・保存することを指します。
LIMSではどちらも“データの消失を防ぐ”という観点から非常に重要ですが、ここでは一般的なイメージ理解にとどめ、詳細設計はIT部門やベンダーとの検討事項とするのが現実的です。
サーバ構成の種類と特徴
ここまで紹介した基本構造を実現するには、どうしたら良いでしょうか。
具体的にLIMSを稼働させるサーバ環境としては、大きく分けて「オンプレミス構成」「クラウド構成」「SaaS型」の3種類があります。
■ オンプレミス構成

オンプレミス(on-premises)は、自社内にサーバを設置し、社内ネットワークで運用する方式です。
社内の制御が効くため、セキュリティポリシー上の制約が強い企業では依然として採用されていますが、後述する理由により、近年は減少傾向です。
- メリット:
・データを社内で完結できる安心感
・カスタマイズの自由度が高い - デメリット:
・ハードウェア調達やメンテナンスの負担が大きい
・障害時の復旧対応を自社で行う必要がある - 向いている企業:
社内にIT部門があり、インフラ運用が可能な組織。
■ クラウド構成(IaaS型)

クラウド構成は、AWSやAzureといったクラウドサービス上にサーバを仮想的に構築する方式です。
物理的なサーバを保有する必要がなく、構築も容易で、近年のLIMS導入では主流となっています。
- メリット:
・初期費用を抑えられる
・サーバの増強や冗長化が容易
・場所を問わずアクセスできる - デメリット:
・クラウド運用に関する知識が必要
・利用料がランニングコスト化する - 向いている企業:
中規模以上の分析センターや、IT部門が整備されている企業。
または管理を外注できる資本力がある企業。
設備更新を機にLIMSを刷新する際の選択肢としても有効。
■ SaaS型(ベンダー提供型LIMS)

SaaS(Software as a Service)型は、LIMSベンダーが運用するサーバをそのまま利用する方式です。
利用者はブラウザ経由でアクセスするだけでよく、導入の手間がほとんどありません。
- メリット:
・サーバの管理やバックアップが不要
・導入スピードが速い
・障害対応もベンダー側で実施 - デメリット:
・カスタマイズの制約がある
・データを外部環境に置くことになる - 向いている企業:
IT要員が少ない、または外部委託に頼る中小規模の企業。
分析業務の標準化を優先し、運用負荷を軽くしたい場合に適している。
業界別に見る構成傾向と選び方のヒント

上記の構成は代表例ですが、業界や企業規模によって、LIMSサーバ構成の傾向は異なります。
一般的な傾向を知ることは、自社に合った構成を検討する上で参考になるでしょう。
- 製薬業界:
CSV(コンピュータ化システムバリデーション)や監査対応のため、アプリケーションサーバとデータベースサーバを分ける構成が多く、さらに冗長化(2系統構成)を採用するケースが一般的。
また、開発サーバ/検証サーバ/本番サーバの3段階を用意することが多いです。 - 化学・素材・食品業界:
コスト重視の傾向が強く、アプリケーションとデータベースを同一サーバ上に置き、冗長構成を省略することも珍しくありません。特に自社にIT専任部門がない場合は、構成をシンプルに保つ方が現実的です。 - 共通して重要な観点:
サーバ構成を決定する際は、会社のIT戦略やセキュリティポリシーの確認を必ず行うことが欠かせません。
企業によっては「分析データ(機密情報)を外部のデータベースに保存してはいけない」というルールが存在し、その場合はSaaSやクラウド環境の利用が制限されます。
逆に、IT統制の方針として「システムは極力クラウド化する」方針を持つ企業もあります。
こうした社内方針を無視して構成を決めると、後工程で再設計を迫られるリスクがあるため、注意が必要です。
サーバ構成選定の考え方(ベンダー視点から)
サーバ構成を選ぶ際の判断軸は、「運用負荷」と「自由度(制御性)」のバランスにあります。
- オンプレミス:自由度が高いが、運用負荷が大きい
- クラウド:バランスが良く、拡張性が高い
- SaaS:運用負荷が最も小さいが、カスタマイズの余地が限られる
近年はクラウド構成が主流となっていますが、これは単なる流行ではありません。
クラウド環境では、サーバ増強や障害対応が柔軟に行えるため、LIMSのような長期運用システムとの相性が良いのです。
一方で、社内規定上データを外部に出せない場合は、依然としてオンプレミスが選ばれるケースもあります。
導入初期段階でSaaSを利用し、運用が安定してからクラウドやオンプレに移行するハイブリッド戦略も一つの案でしょう。
まとめ ― 自社の運用体制に合わせた構成選定を
LIMSのサーバ構成に“正解”はありません。
重要なのは、自社の業界特性・IT体制・セキュリティ方針を踏まえ、どこまで自社で管理し、どこから外部に委ねるかを明確にすることです。
- 業務の継続性を高めるため、冗長化構成とする
- IT要員が限られるため、SaaS構成での運用とする
- 社内のポリシーおよびデータ保管のルールから、オンプレミスとする
このように自社の状況・優先度に合わせ、最適な構成を選定しましょう。
LIMS導入は単なるシステム導入ではなく、「データ管理の仕組みをどう設計するか」という経営的判断でもあります。
サーバ構成を正しく理解し、将来の運用まで見据えた選定を行うことが、LIMS導入を成功に導く第一歩です。
