LIMS導入前に作るべき業務フロー図の書き方(無料テンプレート付)

process-flow

LIMS(Laboratory Information Management System)は、ラボ業務を効率化する強力なツールです。
しかし導入効果を最大化するためには、まず自社の業務を正確に把握することが欠かせません。

その第一歩が「業務フロー図」の作成です。
フロー図を作ることで、現場で行われている手順・情報の流れ・判断ポイントを客観的に見える化できます。

特に品質管理部門では、「誰が、いつ、どのデータを扱うか」が人によって異なるケースが多く、業務の属人化が起きがちです。
LIMSを導入しても、この“バラつき”が整理されていなければ、混乱が残ってしまいます。

業務フロー図は、そうした現状のムラを浮き彫りにし、改善すべき箇所を明確にするための地図です。
この記事では、LIMS導入支援を多数手がけてきた経験から、

  • 業務フロー図をどのようにして描けば良いか
  • As-Is/To-Be/Can-Be の考え方

を、テンプレート付きでわかりやすく紹介します。

業務フロー図を作成するだけでLIMS導入時のトラブルを格段に減らせますので、ぜひご覧ください。

目次

業務フロー図の役割と、LIMS導入プロセスでの位置づけ

業務フロー図とは、「業務の流れ」と「情報の流れ」を整理した図です。
単なる手順書ではなく、業務の全体像を俯瞰して課題を見つけるツールと捉えましょう。

LIMS導入プロセスの中では、業務フロー図はURS(ユーザー要求仕様書)を作成する前段階で作成します。
目的は大きく3つあります。

  1. 現状(As-Is)を正確に把握する
  2. 理想の状態(To-Be)を明確にし、関係者間で共有する
  3. 実現可能な姿(Can-Be)を要件定義で確定させる

この3段階を意識して整理することで、「何を改善したいのか」「どこまでLIMSで自動化できるのか」を明確にできます。

As-Is/To-Be/Can-Beの考え方と関係性

業務フローを書く際は、As-Is/To-Be/Can-Beという3つの視点を区別して考えることが重要です。

定義主な目的タイミング
As-Is現在の業務の実態担当者や課題点を把握ベンダー選定前
To-Be理想的な業務の姿実現したい姿を明確化ベンダー選定前(~要件定義)
Can-Be実現可能な姿種々の制約を踏まえた最終像要件定義

As-Is(現状)

まずは、現在の業務手順をありのままに描きます。
「非効率」「紙やExcelに頼っている部分」「二重入力」などの課題も、遠慮なく記載しましょう。
目的は理想像を描く前に、現状の真の課題を見つけることです。

ポイントとして、関係者や条件分岐、イレギュラーケースなどを忘れずに書きます。
「結果次第でどのようなアクションを実施するのか」「再測定の場合はどうするか」など、うまく行かない場合も想定してフロー図に書き起こします。
作成したら部署内外の複数人で確認し、抜け漏れや誤りがないことを確認しましょう。

To-Be(理想)

次に、LIMSを導入することで「どう変わりたいか」を描きます。
この段階では、具体的なLIMSの製品仕様には縛られず、理想を思い切り書き出して構いません。
例えば「試験データを自動で転記」「試験進捗をリアルタイム共有」などです。

後々、ここで書き出した理想の仕様を、各ベンダーから説明された製品仕様と比較して、どのLIMSにするかを選定します。
必要な機能を全てリストアップすることで、要件定義や開発の手戻りを減らすことができ、導入がスムーズに進みます。

Can-Be(実現可能)

最後に、導入するLIMS製品の機能・制約を踏まえて、実際に実現できる範囲を整理します。
To-Beとのギャップを把握し、「優先すべき要件」や「段階的導入の計画」を立てる際の基礎資料となります。

ただし具体的なLIMS製品の制約を踏まえて考える必要があるため、作成のタイミングは要件定義前後になります。
本記事はLIMS導入前にフォーカスするため詳細は割愛しますが、他のフロー図と同様のステップで作成できます。

業務フロー図の書き方:簡単3ステップ

今回用意した無料テンプレートは、部門別スイムレーン形式のExcelファイルです。
泳線ごとに「製造」「品質管理」「LIMS」などの部門を設定し、情報の流れを矢印で示す構成になっています。
実際の記入例付きなので、初めての方でもすぐに自社業務に当てはめてお使いいただけます。

ステップ1:登場部門を設定する

業務がどの部門をまたぐかを整理します。
複数部門の連携を描くことで、「どこからどこに情報が渡るか」「何が業務のトリガーになるか」が見えてきます。

ステップ2:As-Isを描く

現場担当者にヒアリングしながら、実際の流れを図示します。
「手書き記録→Excel転記→報告書作成」といった実務をそのまま書き出します。
テンプレートの入力例を参考にしつつ、課題や要望も併記すると、LIMSに必要な機能が明確になります。

ステップ3:To-Beを描く

次に、改善後の理想像を別シートに描きます。
例えば「LIMSへ直接入力」「試験結果を自動承認」「データ共有をリアルタイム化」などです。
この段階では、「何を自動化したいのか」「誰がどの情報を見たいのか」を明確にすることがポイントです。

よくある失敗例と対策

よくある失敗対策
フローが細かすぎて全体像が見えないレベルを分けて描く(全体→詳細の順に)
要件定義や開発の段階で抜け漏れが発覚する複数人で確認して承認を得る
他部署のフローが間違っている各部門に確認して合意を得る

LIMS導入支援の現場では、“As-Isの精度が低いままTo-Beを描いてしまう”ケースが非常に多いです。
結果として、開発に入ってから「必要な機能が抜けていた」と判明したり、導入後に「想定していた効果が出ない」「現場が混乱した」といった問題が発生します。

最も重要なのは、現場の実態を正確に描くこと
そのためには、担当者ヒアリングや現場観察を通じて、手順の裏にある意図や判断基準まで掘り下げることが大切です。

まとめ:業務の見える化がLIMS導入成功の第一歩

LIMS導入は、単にシステムを導入するだけでは成功しません。
その本質は、「業務の再設計」です。

業務フロー図を描くことで、現場が抱える非効率や曖昧さを明確にし、“どのように業務を変えたいのか”を社内で共有できます。
これは、LIMSベンダーに要件を伝える際の共通言語にもなります。

テンプレートを活用して、まずは現状を整理してみてください。
もし「自社でどこまで整理すればいいか分からない」「フローをどう分類すべきか迷う」といった場合は、
LIMS導入の経験が豊富なプロが、現場ヒアリングから支援することも可能です。

📩 業務フローの整理から相談したい方はこちら

目次